イヌの起源
すべてのイヌはオオカミを起源としています。 動物行動学という領域を開拓し、1973年ノーベル医学生理学賞を受賞したコンラート・ローレンツは、その名著「ソロモンの指環」で、イヌの祖先には2系統(ジャッカル系イヌとオオカミ系イヌ)がいると説明しました。 ローレンツは動物とともに生活しながら、動物にみられる奇妙な行動が種の維持にとって重大な役割を果たしていることを始めて明らかにした学者です。動物というものを、一番よく知っている学者の見解ですから、以前、この2系統説は一定の信頼をもって受け入れられてきました。 しかし、今では、イヌとオオカミの血液を使ってDNAが抽出され、ミトコンドリアDNAの遺伝子が同じであることが確認され、イヌの先祖はオオカミであるとされました。同時に、イヌ科の他の動物がイヌやオオカミとは違うことも証明されました。 従前から、「イヌとオオカミがお互いの子を作ることが可能であり、両者の間にできた子供も生殖可能である」というのが知られていますが、イヌとオオカミが遺伝学的に同じ動物ですから、当たり前だったわけです。 ヒトがオオカミの一部を番犬や狩猟補助などに使うようになったのが、イヌの始まりとされています。 寒い地方のオオカミは、厳しい冬を生き延びるために気性が激しいのが一般的な傾向であり、温暖な地方のオオカミはおとなしいのが普通です。北海道犬に備わった激しい気性は、このオオカミの傾向と同じように解釈できそうです。 アイヌの起源 日本に住むようになったヒトが、どのような起源を持つかについては諸説あります。しかし、その大きな流れは次のようになります。
ただし、この両系統は、ともに西アジアのモンゴロイドを起源としています。 南方系とは西アジアからインド・東南アジアに移動したヒトで、北方系とは西アジアからシベリアに移動したヒトです。
③と④は混血しながら、古い縄文人である①と②を日本の両端に追いやります。 やがて、日本の両端に追いやられたヒトのうち、東北、北海道、樺太、千島に住んだヒトは「アイヌ」、海を隔てて南の沖縄に住んだヒトは「琉球人」となります。 やがて、和人(大和朝廷)が勢力拡大政策でアイヌ討伐を始め、東北に住んでいたアイヌは北海道に逃れます。それ以来、アイヌの居住地が北海道以北となります。 近世におけるアイヌ民族の分布 (提供:アイヌ民族博物館) 北海道犬の起源 イヌはヒトにとって相性の良い伴侶・・・・・さらに、ヒトの狩猟を助け、番犬などとしても働きました。 昔から、ヒトは、いつもイヌを伴っていました。ですから、「日本犬の歴史」は「日本人の歴史」と同じ流れを持つことになります。 当初、上述の①や②が連れてきたイヌは縄文犬といえますが、やがて③や④に追われた①や②が飼っていたイヌがそれぞれ北海道犬と琉球犬になります。 ③と④が連れてきたイヌは混血しながら弥生犬になり、本州のイヌの祖犬(やがて、柴犬、紀州犬、甲斐犬、四国犬などに分岐)が形成されます。 ①による琉球犬を南方系、②による北海道犬を北方系といいますが、どちらも古くは西アジアを起源とするイヌであり、北海道犬と琉球犬には共通点が見られます。血液中のタンパク質の遺伝子組成を比較した最新の知見で、そのことが確認されています。 同じ理由で、琉球人とアイヌにも共通点があります。両者ともに、湿った耳あかのヒトが多いのです(どちらの先祖も南からやってきた)。一般に南に住むヒトの耳あかは湿り、北に住むヒトの耳あかは乾いています。寒地では、乾いた耳あかのヒトが生存に有利です(凍結の心配がない)。 |